言葉はいつもつたないのだから
テーブルの上の皿たちが睨んでくる。
明らかな殺意を感じる。
が、所詮お前らは何も出来ない。
手を出すどころか、綺麗に並べられた列を乱すことも出来やしないじゃないか。
「 … 食器にまで喧嘩を売るようになったのかな? 」
背後からそう言われて、顔を上げた。
目の前の皿に湯気をまとったパスタが盛られた。
微かに香るバジルが俺の胃を刺激する。
「 珍しいな、手前が俺を誘うなんて。それも、 」
「 手作り。と言っても、茹でて混ぜただけなんだけどね 」
フライパンを持って再びキッチンへ戻っていく。
その姿がなかなか様になっていて、
何だかくすぐったい気分になった。
喉の突っ掛かりをとるように咳払いをして、
俺はそこに居直った。
「 何が目的だ? 」
奴が目の前の席に着いたのをきっかけに、俺は問いただした。
すると、キョトンとした顔で返された。
「 やだな、毒なんて盛ってないよ。俺はただシズちゃんと食事をしたかっただけ 」
それだけだよ、と付け加えると奴はフォークを手に取った。
「 それとも、シズちゃんは食事の後の事を気にしているのかな? 」
フォークの先端をぺろりと舐める。
その舌先の褐色に、どきりとした。
俺の内臓から頭の中まで見透かすような奴の目。
慌てて俺も手元のフォークを取る。
ひんやりとしたその感触が、俺の体温が上がっていることを教えてくれた。
パスタに突き刺して、何食わぬ顔で誤魔化す。
しかし目の前の奴はクスクス笑うだけで、
後は何も言ってこなかった。(それがまた腹立たしい)
上手に巻かれたパスタは次々と奴の口に入っていく。
時々映える鮮やかなグリーンに、呼吸が乱れる。
奴の細い指先や、濡れた口元に惹き付けられていることに気付く。
白いLEDライトの下だから、やけにコントラストが際立った。
( っ… これが目的かよ … )
下半身が疼く。
いつも余裕が無くなるのは俺の方だ。
気付かれないように舌打ちをする。
奴はまるでその様子を楽しむように食事をする。
鼻歌まで聞こえてきた。
そのメロディーにどこか聞き覚えがあったが、
もはや思い出す余裕はなかった。
俺は不意に席を立ち、
目の前の奴の胸ぐらを掴んで強く引き寄せた。
大きな音を立てて揺れる皿。
「 … 毒なんて盛らなくても、シズちゃんは俺のものだもんね 」
そう呟いた奴の唇に噛み付いた。
比例して冷めていく残されたパスタに一瞥をくれ、
俺はひとまず目の前の奴から味わうことにした。
fin*
○あとがき○
食事中のマナーがなっていない!
マイナス√3点!